京都市東山区で2019年にオープンしたレストランLURRA゜(ルーラ)は、築150年を超える京町家を改修し、外観は京町家らしさをしっかりと残しながらも、足を踏み入れると外観の印象とは違った空間が広がる。LURRA゜のゼネラルマネージャーである宮下拓己さんとシェフのジェイカブ キアさんに京町家を活用することになった経緯や思いをお話しいただきました。
京町家のプロフィール
京都市営地下鉄東西線「東山駅」より徒歩1分の場所にあるつし2階※の京町家。空き家となって3年程経過し、老朽化が進んでいたが、宮下さんとジェイカブさんとの出会いにより息を吹き返し、現在はレストランLURRA゜として活用されている。
※ 2階の天井が通常より低い。明治の後期まで一般的に建てられた様式
宮下拓己さんのプロフィール
LURRA゜ ゼネラルマネージャー。東京都生まれ。フランス・Micheal Brasで修行。帰国しサービスへ転向、東京や大阪のレストランでソムリエとして勤務。オーストラリアに渡り、メルボルン・VUE DE MONDEで経験を積み、ニュージーランド・Clooneyにてヘッドソムリエとして、3ハット獲得に貢献。
ジェイカブ キアさんのプロフィール
米・カルフォルニア生まれ。ロサンゼルスや東京での経験を重ねた後、デンマーク・NOMAで研鑽を積み、noma東京に随行。ニュージーランド・Clooneyでヘッドシェフ時代、ニュージーランド・Cuisine Good Awardsの3ハットを獲得。
築150年を超える京町家との出会い
LURRA゜は、当時修行中の身であった宮下さんとジェイカブさんがニュージーランドのレストランで出会ったことをきっかけに、ミクソロジストの堺部さんを含めた三人の共同経営として京都市東山区でオープンしました。
ジェイカブさんは、東京のレストランで働いていた時に京都を訪れ、東京とは雰囲気の全然違う京都の町を好きになり、その後、京都でお店を出すという話が出た際に、それなら京都らしい京町家が良いだろうと軽い感じで物件探しを始めたそうです。
「京都は縁がないとなかなか良い物件に出会えないと聞いていたが、僕たちは割とトントン拍子に決まった。」とジェイカブさん。
2018年の2月に知人から「面白い物件が出たから見に来ないか」と言われ、出会ったのが現在のLURRA゜の店舗となる築150年を超える京町家でした。
「この物件を初めて見に行ったときに、宮下さんは東京にいたが、僕はここしかないと思った。やるならここだと。」とジェイカブさんは話します。
なぜ京町家を選んだのか
世界の有名レストランで修行を積んできた宮下さんとジェイカブさんは、なぜ京町家でお店を出そうと思ったのでしょうか。
「歴史が好きだし、京町家が魅力的だったので、それを守りたいという思いもあり、京都でお店を出すなら京町家にしない理由がないと思った。住むには少々不便でも、仕事場として活用するのであれば、また別のアプローチがある。」とジェイカブさん。
また、宮下さんも、「京都という町を考えたときに、京町家で何か事業をやりたいという強い思いがあった。海外からの視点で見ても、京都イコール京町家の雰囲気、それに連なるものが町の文化を作っていると思っていて、最初から京町家を改修して事業をするというのは決めていた。」と語ります。
レストランとして改修する際にこだわったポイント
LURRA゜は、外観に京町家の要素や雰囲気を残した改修がなされつつも、一歩足を踏み入れると大きな薪窯のあるキッチンと、それを取り囲むL字型のカウンターテーブルが配置され、外観のイメージとは異なる洋風なレストランとしての空間が作り出されていますが、その中でも、京町家ならではのアットホームな雰囲気を感じることもできます。京町家や古民家を活用した飲食店はよくありますが、LURRA゜では、外観と内観でしっかりと別空間を作ることと、土壁や既存の梁を残したり、日本の良さと新しさを取り入れることを意識したのだそうです。
また、昔のガスが通っていなかった頃の京町家の状態を再現したいという思いから、あえてガスを通していないのだそうです。
「よりプリミティブ(原始的)な感じで料理がしたかった。日本だけでなく、ローマもコペンハーゲンもそうだが、昔の建物の方が今の建物よりも魅力的で価値を感じる。格好良い梁が一本あるだけでも、現代の建物とはまた違った良さがある。」とジェイカブさん。
また、宮下さんは、「木造建築というものは、築100年を超えてくると思った以上に老朽化が進んでしまっていたりするため、改修費は想像以上だったが、今は一周回って京町家で良かったと思える日々を過ごしている。一番の魅力は、京都らしさをしっかりと表現できること。建物のサイズはある程度限られてくるが、カウンターのお店にしたときに、シェフやキッチンのメンバーとお客様とのちょうど良い距離感を作りやすいという京町家のサイズ感の良さもある。」と話します。
お客様の反応
「LURRA゜のお客様の9割は海外の方。京都のイメージとして京町家という印象を強く持たれている方も多いが、お店に入ったときに、外観のイメージとは別の空間であるということに驚かれる。外観の京都らしさとのギャップがお客様には凄く喜ばれているし、町や地域においても京都らしさを残せるという点で自分たちも気に入っている。京都という場所柄、京都で仕事をしたいという人たちは、京都の魅力に惹かれ、何か京都を良くしたいという思いで事業をすると思うので、京町家を活用して事業をやっているということは自分自身の誇りになる。」と宮下さん。
「こういう家に住みたい。」というお声もよくいただけるのだそうです。
京町家が減少している現状への思い
京町家が解体され、年々その数が減っているという現状に、「京都に京町家がないと京都である理由がなくなる」と危機感を抱くジェイカブさん。宮下さんも同様に危機感を抱きます。
「京町家が減っているのはニュースなどで見て知っている。京町家が減ってなくなってしまうと、京都らしさも減ってしまうと思うので、その当たりは自分達も意識している。」
「LURRA゜の周りも保全のために市の指定等を受けている京町家があるが、高齢者が多いエリアなので、今後空き家になる京町家が出てくると思う。それらがどういう活用をされるのかは分からないが、単に潰して駐車場にするのではなく、何かもっとポジティブなものにしたり、自分達ではなくても京町家を活用して何か一緒にやりたいという方々が集まってくるような活動が今後できたら良いと思っている。」
また、宮下さんは、LURRA゜の近くで別の京町家を活用した新たな事業の準備も進めていて、そこは、清水焼の陶芸のアトリエや朝・昼・夜開いている飲食店、シェアオフィスの複合施設にする構想だという。
「その場所でしかできないことをしっかりとやる。その場所というのはエリアの話だけではなくて、今準備中の事業で言うと、陶芸のアトリエが入ったりとか、京都に紐づく伝統工芸や伝統産業とタッグを組むという在り方が大切だと思う。エリアで考えたときには、色々な日常使いできるお店などを分散し、人々が色んなお店に立ち寄るようにしてあげることで、まちに循環が生まれていく。そういうことができるとまちは元気になっていくと個人的には思っている。」
京町家にはどのような活用方法が合っているか
本来の住宅という在り方だけに留まらず、京町家はニーズに応じて様々な活用がされています。
レストランとして活用することを選んだ宮下さんとジェイカブさんですが、本屋やカフェ、コーヒーショップなどで活用することも京町家と雰囲気が合っていて、そういった店が町に点在することで人の行き来が増えたら良いと話します。
「日本人目線でも外国人目線でも、京町家は京都っぽさが特徴的で、SNS映えもする。飲食店はやりやすい方だと思う。京町家の改修にはそれなりのコストがかかるので、事業としてしっかり回していけるもの方がその後もちゃんと京町家を残していけると思う。」
ーー京町家と共に、京都の未来を展望する若きお二人の今後の新たな挑戦に、期待が膨らみました。