福祉と地域を繋ぐきっかけに。京町家を拠点とする福祉施設兼クラフトビール工房

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京町家の前での野村さんの写真

社会福祉法人菊鉾会ヒーローズは、多機能型の福祉施設で、全国の飲食店から注目を集める「西陣麦酒ばくしゅ」の製造・販売も手掛けています。福祉施設がなぜ京町家を拠点とし、ビール事業も行っているのか、その理由を常務理事・事務局長の野村尊実たつみさんにお聞きしました。

京町家のプロフィール

築140年超の織屋建の大型京町家。以前は飲食店として活用されていたが、現在は社会福祉法人菊鉾会ヒーローズ(以下「ヒーローズ」)が福祉施設として活用している。2023年夏頃には、以前に拠点を置いていた西陣産業会館からクラフトビール「西陣麦酒」の工場が移転予定。

※ 織物業が盛んだった西陣に多く見られる京町家の様式。一般的な京町家とは表と奥の使い方が異なり、表に住まい、奥に作業場があるのが特徴

>社会福祉法人菊鉾会ヒーローズ(外部サイトに移動します)

歴史ある京町家が福祉施設に

ヒーローズは、日中活動の場の提供などの「生活介護事業」と、働く場の提供などの「就労継続支援B型事業」の2つの事業を中心とした社会福祉施設です。

大宮通と今出川通の交差点を少し南に下がったところにある

以前に拠点を置いていた建物の取り壊し計画が出てきたのと法人の規模を大きくするために移転先を探していたところ、地域の方に紹介されたのが現在の京町家だったそうです。実は、ヒーローズは福祉施設でありながら、クラフトビール「西陣麦酒」の醸造・販売というユニークな取組を行っています。そのため、福祉施設としてだけでなく、ビール工房を一緒に移設できる広さを求めていました。元は糸屋であった織屋建の京町家は広さも十分。築140年というネームバリューがあることや、福祉施設と京町家というのが面白いということになり、紹介されてすぐに移転が決まったと言います。

織屋建ならではの吹き抜けの高さが印象的

福祉施設ならではの改修も必要だった

入居するに当たっては、長らく空き家であったことから、壁が汚れていたり、照明やエアコンがなかったりと一般的な改修はもちろん必要だったそうですが、「福祉施設ということもあり、耐震面の対策が必要で、そこは大家さんに耐震壁を入れるなどの改修をしてもらいました。その他にも、各部屋にカメラを付けたり、窓ガラスに飛散防止用のフィルムを貼ったりと、安全のための改修が必要でした」と野村さん。

利用者さんの作業スペースはお庭に面したお座敷

京町家ならではの空間をエリアを分けて使用

この京町家は、主屋と土蔵2棟、お庭がある築140年の建物。「千両ヶ辻」と呼ばれる西陣の中でも特に織物が盛んであったエリアにどっしりと佇みます。京町家の表側はビール工房として活用予定で、それ以外は福祉施設として活用。利用者からは、雰囲気が良く落ち着くという声があり、職員も以前の会館ではなかった床の間に季節の飾りつけをして楽しんでいるそう。また、お庭が見える利用者さんの作業スペースには、エクササイズができるマシーンも設置していたり、リラックスタイムには、縁側に座って足湯を楽しむこともあるのだとか。
「京町家への移転はコロナ禍だったので、これまではあまり活用できていませんでしたが、コロナが落ち着いたら京町家を舞台に地域の方にも来てもらえるようなイベントをしたいと思っています」と野村さん。

エクササイズ用のマシーンも設置。まるで京町家の一画がジムのよう
縁側に腰を掛けてお庭を愛でながら足湯を楽しむ時間は京町家ならでは

京町家で造る「西陣麦酒」で地域との繋がりを

元々「西陣麦酒」の事業を始めたのは、利用者さんに地域との関わりを持ってもらうきっかけとなることを目指してのことで、商品を作って売っていくには何が良いかを考えたところ、当時クラフトビールの市場が伸びていたことや前代表がビールが好きだったこともあり、クラフトビールに決まったそう。2017年にスタートしたクラフトビールの事業は、農家や大学のゼミ、行政などとのコラボレーションを積極的に行い、様々な個性的なビールを生み出し続けています。生活介護事業の利用者さんは、瓶にラベルを貼ったりタグを作ったりする作業を行い、就労継続支援B型事業の利用者さんは、瓶詰めや醸造を担当するなど、それぞれの特性に合わせて「西陣麦酒」に関わっているのだそうです。
西陣麦酒を置くお店が増えており、お中元などでも人気があるそうで、品評会で金賞を取ったこともきっかけとなって、特に夏場は間に合わないくらいの注文が入るのだとか。

他ではない味わいテイストもパッケージも個性豊かなことが「西陣麦酒」の人気の秘密

元の施設では、週に1回タップルーム(醸造所併設のビール専門のバー)を開いていたので、ヒーローズと地域が繋がるきっかけづくりの場になっていました。「ビール工房は夏頃オープン予定ですが、オープンしたら販売だけでなく飲食スペースも設け、より地域の人たちとの交流を持てる場所にして利用者のくらしをサポートしつつ、お店も軌道に乗せたいと思っています」と野村さん。最後に、「ビールをおいしいと思ってくれた人が、それをきっかけに福祉施設が手掛ける事業なんだと知ってくれるだけで意味があると思っています。京町家は、西陣らしさの溢れる空間で訪れる人の反応が良く、これからも地域との交流や事業を進めていくうえで助けになってくれると期待しています」と教えてくれました。