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1枚の通知が繋いだ京町家の未来!明治から続く京町家が日本文化の体験施設に

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京町家の外観写真

一度は解体を考えられましたが、京都市の「京町家マッチング制度」を活用し、見事、活用者とのマッチングが成立した水谷邸。本制度を利用した当時の思いや活用までの経緯を所有者の水谷祥一郎さんにお聞きしました。

※京町家マッチング制度
 京都市が、市に登録された京町家の取扱い経験が豊富な専門家と共に、京町家の改修や活用方法、京町家を継承・活用したい方とのマッチング等を提案する制度
>京町家マッチング制度

京町家のプロフィール

御幸町通沿いにある茶室や庭、蔵を擁する大型の京町家。主屋は明治時代初期から中期にかけての建築。現在は、日本ならではの文化体験ができる施設として活用されており、海外の方にも評判で多くの方が利用されている。京町家条例に基づく個別指定京町家。歴史的風致形成建造物。

>京町家条例に基づく指定制度
>歴史的風致形成建造物について(京都市情報館に移動します)

街中にある明治から続く大きな京町家

水谷邸は、古美術商を営む水谷さんが所有する御幸町通沿いにある大型の京町家。元々は水谷さんのお父様が昭和25~6年頃に購入されたそうで、美術商の店舗兼御家族の生活の場でもあったと言います。以前はお母様がお一人で住んでおられましたが、水谷さんが管理されるようになってからは、住居としては使用しておらず、年に数回お茶会や食事会などで活用する程度で、水谷さんが定期的に足を運び、お一人で京町家の維持をされてきました。京町家の維持はとても大変で、定期的なメンテナンスが必要となります。「子どもの頃から過ごしてきた京町家ですから、できるだけ大切にしたいという思いで、自分にできる範囲のことをしてきました」と水谷さん。

広々とした1階の大座敷。床の間には季節のお花や掛け軸の設えがされている

子どもの頃からの大切な思い出が詰まった場所

水谷さんが小学生の頃から独立されるまで住んでいたこの京町家には、当時の思い出がぎゅっと詰まっています。庭にあった桜の木でお花見をしたり、小学生の時にはその間取りの広さが少し自慢だったり、大学生の頃は友人達が毎晩のように泊まりに来たり……。

庭では、四季折々の植物を楽しめる

そうした様々な思い出がある京町家だからこそ、今後も残していくために、大切に使ってくれる人に借りてもらいたいと、不動産業の知識を持った友人に相談をしていましたが、なかなかうまく見つからず、駐車場にすることを勧められていたのだそう。水谷さん自身も「もう解体するしかないかな……」と思っていたところ、ある日、ポストに1枚の通知が入っていました。

解体の危機を救った1枚の通知

それは、この京町家が京町家条例の「個別指定京町家」になったというお知らせでした。「個別指定京町家」になると、京町家の解体に着手する1年前までの「解体届」の提出が義務付けられることとなります。これは、京都市による京町家の保全のための取組の一つで、京町家の解体を一度立ち止まっていただき京町家を残すことを考えていただくために設けている制度。制度の詳しい話を聞くために京都市役所を訪問すると、「京町家マッチング制度」を紹介されました。「この制度で思い出の詰まった京町家を残せるならば……」と利用を依頼した一方で、活用と解体で気持ちが揺れ動いていたこともあり、解体届も提出しました。

2階の大座敷の床の間。お部屋ごとに異なる設えも楽しみの一つ

所有者と借り手を繋ぐ「京町家マッチング制度」

その後、京町家を借りたいという人々と出会いましたが、茶室や庭があり、部屋数も多く、飲食店などに利用するには「広すぎる」ことや飲食店は大きく中を改修することになることなどがネックとなり、活用が決まらないことが続いていました。そんな中、令和2年9月、見事マッチングが成立したのが、京町家を舞台に茶道や華道、着物の着付けなど、日本文化を体験できる施設を運営する会社でした。京町家の落ち着いた雰囲気や広い空間を部屋ごとに区切ってフレキシブルに使うことができる特性など、京町家は日本文化を発信する事業とはそもそも相性が良かったそうです。

茶室での茶道体験の風景。初心者でも気軽に参加できる

マッチングが成立した会社の方は、「お庭が美しいことはもちろん、建物の状態を見て、大切にされてきたことが伝わってきました。そうした水谷さんの思いを自分達も大切にしたいと感じ、この京町家をお借りすることにしました」。水谷さんも「京都市のおかげで良い会社さんと出会え、この京町家のこれまでの在り方を変えることなく、一番良い形で京町家を保全することができて大変喜んでいます」と話してくださりました。実は水谷邸は「京町家マッチング制度」初の成立事例。解体届を提出するだけでなく、京町家マッチング制度を利用したことが京町家を未来へと導いたのです。

茶室へと続く露地(茶庭)。大小の灯籠が3基配されている

「京町家を守っていくということは、とても大変なことなので、次の世代のことは私にも分かりません。ただ、私個人としては、和の空間が好きですし、京町家もできるだけ守っていきたいと思っています」と水谷さん。「御縁があって京町家マッチング制度の成立第1号となりましたが、同じような人が増えたら良いなぁと思っています。私にとっては、自分が育ってきた京町家を守りたいと行動したことでしたが、そうした個人の思いが結果的に京都市が取り組む京町家の保全に繋がったのだと感じています。京町家の今後について悩んでいる方は一度京都市に相談してみては」と話してくださりました。
水谷さんの思いが借り手にもきちんと伝わり、丁寧に活用することで、体験に訪れる人達にも京町家の魅力が存分に伝わっている――水谷邸は、そんな相乗効果が育まれている京町家です。