2022年2月にオープンした「小川珈琲 堺町錦店」。京町家を改装したモダンな空間で、早朝から美味しいコーヒーとフードを楽しめると評判を集めています。京都で愛され続ける「小川珈琲」がなぜ今、京町家を選んだのか、店長の市村克人さんにその理由をお聞きしました。
京町家のプロフィール
京都で創業した老舗コーヒーロースター・小川珈琲が、2022年2月にオープンした店舗。「100年先も続く店」をコンセプトに、創業の地のほど近くにある京町家を再生させ、誕生した。歴史の赴きを感じさせる店内では、ネルドリップのコーヒーや京都産の素材にこだわったメニューを味わえる。
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創業の地の近くで出合った、築100年以上の京町家
70年の歴史を持つ、京都発のコーヒーロースター「小川珈琲」。京都を中心に、東京やボストンにも店舗がある人気店ですが、その中でも「堺町錦店」は、100年先の未来へと繋がることを目指して誕生した特別な店舗です。
どっしりとした佇まいの京町家。入り口はガラス戸で明るい雰囲気に |
創業70周年に向けて新しいお店をオープンするに当たり、創業の地の近くで物件を探していたところ、御縁があって出合ったのが後に「堺町錦店」となる京町家でした。100年以上続く京町家が抱くストーリーは、小川珈琲が求める「100年先まで続く店」というコンセプトと見事にマッチ。また、人々が集う「京の台所・錦市場」にほど近いことから、京都の人たちとの繋がりも大切にできる場所であると考え、こちらの京町家での出店が決まりました。それから約2年の時を経て、2022年2月に「堺町錦店」はオープンすることになります。
京町家の特徴を生かしながら、居心地のよさも演出
店内に足を進めれば、京町家ならではのぬくもりと、モダンな雰囲気を兼ね備えた空間が迎えてくれます。京町家の特徴でもある細く長く奥に続く空間はそのままいかしながらも、驚くほど開放感があるのが印象的です。
「うなぎの寝床」と呼ばれる、奥へ奥へと続く京町家の特徴をいかした店内 |
その秘密は、エントランスの吹き抜けと、坪庭を見渡せる大きな窓。耐震の面から吹き抜けをつくることは難しかったそうですが、「訪れる人に心地良い時間を過ごしてほしい」との思いから調整を重ね、無事に理想的なエントランスが完成。開放的な吹き抜けと、大きな窓から射し込む柔らかな光が合わさり、何とも居心地のよい空間が生み出されています。
大きな窓からは坪庭を見渡せる。時には小鳥が遊びにくることもあるのだとか |
ちなみに、坪庭にある大きな石は軽石。日本に自生する30種類以上の植物が植えられているのだそう。特別な手入れはせずとも自然に育っていく植物の姿も、100年先を見据えたお店のコンセプトに繋がるようです。
設えからメニューまで、100年先を見据えた取組
「堺町錦店」の使命は、「日本ならではのカルチャー」と「珈琲文化」の発信。その根底にあるのは、小川珈琲が長年培ってきた「珈琲を通して持続可能な社会への貢献をしていきたい」との強い思い。それは空間作りにも表現されていて、例えば、改装の際に出た廃材がテーブルの脚に生まれ変わったり、元々あった梁を和モダンな空間に合うよう脱色し再利用したり……。
テーブルの脚に使われる廃材。かつての京町家の一部をさりげなく再利用することで、空間に統一感を与えている |
(左)エントランスの吹き抜け。梁は脱色し再利用、(右)改装前の梁。元は随分と深みのある色合いだったことが分かる |
こうした小川珈琲のベースにあるサステナブルな活動への思いは、京都の人たちに受け継がれてきた京町家での丁寧な暮らしにもリンクするようです。また、2階にイベントスペースがあり、京都だけでなく幅広いカルチャーの発信地点となっていて、京都ではじめて開催するイベントで使われることもあるそうです。
2階にはTOGOメニュー(お持ち帰りメニュー)が飲食できるフリースペースとイベントスペースもあり、お気に入りの席でコーヒーを楽しんだ後は、イベントを楽しむことができる |
100年先を見据えた取組はもちろんメニューにも反映されていて、例えばコーヒーはエシカルなもののみを揃え、ネルドリップで提供しています。歴史ある小川珈琲の中でも、ネルドリップでの提供ははじめてのこと。フィルターを繰り返し使うことができるため、エコである点はもちろん、昔ながらの珈琲文化の発信にも繋がっています。
(左)人気のモーニングメニュー、(右)1杯1杯丁寧にネルドリップで淹れている |
さらに、フードメニューは地産地消にこだわり、京都産小麦を使った食パンや佐々木酒造の米麹を使った糀バターなどを開発したほか、京都ならではの食材を使ったメニューを提供しています。
歴史ある京町家から発信する珈琲文化
「堺町錦店」には、早朝から老若男女問わず多くの人が足を運びます。地元の人や観光の人、さらには海外の人などお客様の層はさまざまですが、1杯のコーヒーと共に、皆、思い思いの時間を過ごしています。実は、建物でメディアに取上げられるなど、建築関係の方に注目されていて、建築に興味を持って訪れる人も多く、建築関係の学校に通う学生さんから、働いてみたいとの声もあったそうです。
坪庭の奥には更に「離れ」がある。入り口側のフロアとは異なる雰囲気を楽しめる |
さらに、小川珈琲の社員が商談の場として活用することも。小川珈琲の思いが詰まった空間に身を置いての商談は、自然と話も弾み、会社や商品のことをより深く理解してもらえるのだといいます。そうした相乗効果も、小川珈琲の思いと、100年以上の歴史ある京町家が持つストーリーがうまく融合しているからこそ。「この歴史ある京町家から、100年先の未来に向けて、今後も文化と珈琲の魅力を発信していきたいです」――その言葉に、100年先の未来をのぞいてみたくなりました。